カルトなラーメンたち

その3 カブトガニの価値

江ぐち 外観
中華そば 江ぐち@三鷹
JR三鷹駅南口を出て最初の信号のある交差点左手手前の地下一階

 天然記念物のカブトガニは、みなさんもご存じと思う。見た目はゴツくて不格好な中生代の生物なのだが、現代でも瀬戸内海などに生息し続ける、まさに生きた化石と呼ぶにふさわしい貴重な生物である。
 昭和の時代から歴史を重ねるラーメン界にも、カブトガニのような存在の店がある。その一つが、ココ三鷹の地下に生息する江ぐちなのだ。

江ぐち 看板
この看板を見ながら地下に降りていこう

 地下の食堂街にあるこじんまりとした店。席はカウンターのみで、厨房をぐるりと取り囲むステンレス製のそれはあちこちが傷つきへこみ、店と共に過ごした長い時間を思わせる。麺は大鍋で茹でているが、茹で汁はドロドロに濁っており店の忙しさを伺わせる。
 オヤジが丼にかえしを入れる。お玉を使ってだ。正確な分量など、計れる筈もない。食塩の容器に入れた、おそらくは化学調味料を振りかけると、調理台のあちこちに飛び散る。全てはオヤジのカン一つがなせる職人技なのだ。それはあたかも、書道の達人が書いた文字が達筆過ぎて、一般人にはまるで読めないのに似ている。シロートには決して推し量ることのできない世界が、ここに息づいているのだ。

江ぐち ラーメン
肝心のラーメンはこんな感じ。値段はなんと\400
だが、お世辞にもうまそうには見えない(笑)

 スープからはみださんばかりに盛りつけられた特製の太麺。ボールにたっぷり仕込まれた具は、投げつけるように麺の上へと手際よく乗せられていくが、その美的センスは筆者には理解しがたいものだ。
 肝心の味だが、スープは醤油の味が前面に出ており、ダシの風味を感じにくい。黒みがかった太麺は蕎麦のようなざらざらした食感とゴムのような弾力を合わせ持つ、オリジナリティ溢れる味わいだ。無化調でダシの風味を前面に出した現代のラーメンと比べると、あまりにもワイルド。これは中華そばなんてしゃれたシロモノではない。下賤な食い物、ラーメンなのだ。

 カブトガニはなぜ貴重な生物たりえるのか。それは、現代においても今だ生きているからだ。生きていることにこそ、カブトガニの存在価値がある。絶滅したカブトガニなど、ただの化石に過ぎないのだ。それはこの店のラーメンにおいても同じこと。創業当時の味を極力残したまま現代でも営業し続けているからこそ、この店をわざわざ訪れ食し、古き良き時代に思いを馳せる価値があるのだ。
(2000.09.24)

Text & Photo by ヴァイス

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